2018/05/10

レジデンス・デザインは長寿命に!

建築デザインにも寿命があることはご存知ですか。

これはなにも寿命が尽きれば建物が崩壊するという意味ではなく、
長く乗りなれた自動車や穿きなれたデニムと同様に、
建築に飽きることなく愛着を持っていられるかという期限の意味。

たとえばブティックや飲食店など、著しくモードの移り変わる商品を扱う商業建築、
ブランドのお顧客嗜好に合わせ、その空間や建築デザインに対しても、
最新トレンドの取り込みが求められる。
概してデザインが効力を発揮できる寿命は長くなくとも良いとされる。
モードに合わせ適度なデザインの更新を繰り返せばよい。

一方公共施設や住宅、オフィスビルなどの建築デザインはむしろトレンド性よりも、
公共性やテーマ性、普遍性が必要で、建築の持つコンセプトが
30年、50年という長期にわたり風化しずらい事が重要。
つまり長寿命なデザインが求められる。

これはレジデンスのデザインにおいても同じこと。
ただし戸建て住宅や集合住宅は公共建築やオフィスビルに比較し、
メンテナンスに割けるコストは限定的であるがゆえに、
デザインという付加価値に対してメンテナンスをできる余裕はほぼ皆無。
ここがデザインする場合のキモとなる。

不幸なことに戦後日本の早期復興において、
建築にデザインからアプローチするという発想はあまりなかった。
わたしたち市民が良質な建築ストックに触れる機会も少なく、
家電やファッションのデザインとは異なり、
身近に建築デザインを吟味出来る環境を持たなかった。

ここ20年は建築や住宅のデザインを扱った雑誌なども散見するが、
にわかにトレンド建築や著名な作品の追随に捕らわれ、
一般消費者が実際に購入する住宅デザインの向上目的とは縁遠い内容に思えてしまう。

したがって消費者の探求と欲求が独自に肥えた目を育て上げ、
サプライヤーがその目先を読みながら商品をリリースしていく状況が今のような気がする。

いつの時代もコストを掛ければその分見栄えの良いデザインは可能になる。
だけどそこに文化を感じ取ることが出来なければ、
きらびやかさだけの寿命は果たして短いもの‥‥‥。
80年代の装飾過多な建築はそれを教えてくれる。

また、デザインでよく使われる機能美というワード。
レジデンス建築に限れば機能美の追及だけでは良いデザインは生まれにくい。
シャープなコンクリート打ち放し建築に断熱機能を持たせると
その造形が損なわれるという具合に。

建築、特にレジデンスの建築デザインは、まず長寿命であること。
そのうえで適度に経済性があり、適度に安定性があり、適度に機能性があり、適度に装飾性があり、
そして適度なトレンドも‥‥‥。
この場合でいうトレンドとは植栽等、効率的で思い切った更新が可能なもの。

都市部で見かける、あるいはよく知られた秀逸なレジデンスは、
おおむねそれらすべてが整えられており、
経年とともに味わいと風格が増している。
すなわち長寿命なデザインといえるだろう。

自分がレジデンスを入手する機会に巡り合えたなら、
立地や価格以外に、建築デザインの寿命といった視線で建物を見ることが大切です。

本文 小寺


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